FPわかし’s blog

目指せ!お小遣い投資家

集計データの注意点(平均値)

投資家として大切な視点の1つは、集計データから何を読むかです。世の中には様々な集計データがありますが、そこから間違った解釈をしてしまうことがあります。特に、平均値データには注意が必要です。公表されている集計データそのものが何を意味するのか、その集計データからどう行動すればいいかをしっかり考えなくてはなりません。

 

例えば、平均所得というデータですが、多くの人が想像するより高い金額になる傾向があります。厚生労働省の「平成 29 年 国民生活基礎調査の概況」によると、平均所得は「739.8万円」(児童のいる世帯)です。これは1000万円以上の世帯が全体の18.6%を占めており、この層が平均所得額を押し上げているわけです。なお、平均所得額を含む700~800万円の世帯は全体の9.5%です。

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平成 29 年 国民生活基礎調査の概況

https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa17/dl/10.pdf

 

つまり、平均所得を得ている世帯は1割もないわけで、9割以上の世帯の所得は平均所得ではないということです。ほとんどの世帯が当てはまらない「739.8万円」という集計データは何の意味もありません。ましてや、世帯収入が740万円近くあることを前提に物事を考えだすと間違った方向に進んでいきます。「あの人は、実は所得が700万円以上あるのかな・・・」なんて思ってしまうなら集計データに惑わされている証拠です。

 

これは平均貯蓄でも同じことです。総務省の「家計調査報告 2019年」によると、世帯あたりの平均貯蓄額は「1755万円」です。これは4000万円以上の世帯が11.4%を占めており、全体を底上げしています。平均値ではなく中央値は1033万円であり、貯蓄額が1000万円以下の世帯が約半分(50.5%)となっています。

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家計調査報告(貯蓄・負債編)-2019年(令和元年)平均結果-(二人以上の世帯)

https://www.stat.go.jp/data/sav/sokuhou/nen/pdf/2019_gai2.pdf

 

第1章で「老後2000万円不足問題」を説明しましたが、この2000万円という数字も平均値であり意味のない数字です。大切なのは一般的な統計データを知ることではなく、自分の家計の数字を正しく把握することです。例えば、食費の平均額が9万円だとすると、9万円以下に抑えようという目標は全く意味がありません。食費は生活にかかせないものですし、健康にも関係してきますので、そういった点も踏まえて食費をどうするかを家庭ごとにしっかり決め、毎月の食費を記録して把握することが大切です。

 

このような集計データは意外と身近にたくさんあります。気づかないうちに、数字に「洗脳」されてしまうこともあるので注意が必要です。いくつか事例を説明していきます。

 

テレビのCMや商品カタログなどで「顧客満足度〇〇%!」という表現があります。例えば、顧客満足度92%と聞くとどう思うでしょうか。ほとんどの顧客が満足している良い商品という印象を受けます。しかし、92%という数字は見方によっては全く印象が変わります。というのは、10人に5点法アンケート調査を実施したとします。5点法とは5がとても満足、1がとても不満という点数形式の評価です。もし9人が5点、1人が1点をつけると92%になるのです。

9人×5点=45点
1人×1点=1点
合計46点(50点満点で考えると92%)

これは「とても不満と感じている人がいる」ということですが、92%という数字によって、この事実が隠されてしまうのです。商品選びということで考えると、とても不満と感じたのはなぜかを知りたいところです。

 

次に、最近のがん保険で良く使われるのが「2人に1人ががんになる時代」というものです。国立がん研究センターが公表しているデータを根拠としているのだと思われます。

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国立がん研究センター 年齢別がん罹患リスク

ganjoho.jp


生涯(生まれてから80歳になるまで)のうち、がんになる確率が男性63.3%、女性48.4%という統計データです。これはこれで事実なのでしょう。ただ、30歳の人が40歳になるまでの10年間のデータは男性0.6%、女性1.4%です。これは男性は166人に1人、女性は71人に1人です。「2人に1人」というのは、がん保険を売りやすくするためのデータであり、年齢を無視したセールストークの道具として使われているように思えてなりません。

 

あと、報道番組でも使われる 「国民1人あたりの借金」ですが、なぜ国の借金を国民1人あたりに適用するのか疑問です。国の借金とは主に国債を指していますが、その内訳はそもそも約半分が日銀です。さらに銀行、生命保険、年金機構などが大多数を占めており、その原資は国民の預金、生命保険料、年金保険料です。

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国債保有者別内訳 令和元年12月

https://www.mof.go.jp/jgbs/reference/appendix/breakdown.pdf

 

ですから、むしろ「国が国民から借金している」と言えるのです。国の借金が1000兆円と聞いてもピンときませんが、国民一人あたり900万円と聞くと「ものすごい借金だ」と感じます。そうなると、日本はいずれ財政破綻するから外貨(海外)投資をしましょうというセールストークに結びついてもおかしくありません。

 

集計データというのは、結論としての数値が使われます。しかし、大切なのはその数値を導いた元のデータと結論に至った根拠です。そして、集計データを使う人の目的も考えるべきポイントです。投資家として、集計データが示す意味集計データを使う人の意図を考える習慣をつけましょう。